大判例

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新潟地方裁判所 昭和28年(レ)31号 判決

控訴人は、「原判決を取消す。被控訴人から控訴人に対する新潟簡易裁判所昭和二六年(ミ)第三五号売掛代金請求調停事件の調書に基く強制執行は、調停条項第三項に掲ぐる残債務金九万四千七百五十円の部分につきこれを許さない。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は、主文第一項と同旨の判決を求めた。

当事者双方が、事実上の主張として述べたところは、

一、控訴人において、

調停条項第一項但書に「右分割支払を三回以上遅滞したる場合」とあるのは、各分割金について、その支払を三箇月遅滞した場合、換言すれば、各分割金について、その支払を弁済期になさず、しかもその支払を遅滞したまま右弁済期から二箇月を経過した場合をいうのであつて、各分割金を通じてその支払を三回遅滞した場合を指す趣旨ではない。又、第三項の「第一項の分割支払を遅滞なく完全に履行したる場合」というのは、右の趣旨による第一項但書の定めによつて期限の利益を失うことなく、第一項本文の分割金の弁済を終えた場合を指す趣旨である。

と述べ、

二、被控訴人において、

(一)、調停条項第一項但書に「右分割支払を三回以上遅滞したる場合」とあるのは、各分割金を通じてその弁済期に支払を遅滞することが合計三回になつた場合をいうのであつて、控訴人主張のごとき趣旨ではない。又、第三項の「第一項の分割支払を遅滞なく完全に履行したる場合」というのは、右第一項本文の各分割金を弁済期に一回でも遅滞することなくして支払つた場合を指す趣旨である。

(二)、そして、利害関係人坂井助次郎が、控訴人主張の日にその主張の如く合計金三十万円を被控訴人に支払つたことは認めるけれども、分割金の支払については当初から遅滞があつたので、右調停条項第一項但書により昭和二十七年三月末日の経過と同時に期限の利益を失つたのみならず、第三項の残額金九万四千七百五十円については、免除の効力が生じなかつたのである。従つて、控訴人は右残額の範囲内においてなお債務を負担し、本件債務名義はその部分につき、なお執行力を有するものである。

と述べたほか、原判決事実摘示と同一であるから、ここにこれを引用する。(なお、原判決三枚目表三行目に「同年二月末日」とあるのは、「昭和二十七年二月末日」の誤記と認める。)

<立証省略>

三、理  由

被控訴人が、昭和二十六年九月中新潟簡易裁判所に対し、訴外三条刃物工業協同組合及び瀬田角平の両名を相手方とし、控訴人、訴外帰山ヒデ、金川金司、坂井助次郎の四名を利害関係人として、右組合に対する十字鍬の売買代金残額金三十九万四千七百五十円の支払を求めるため調停の申立をなし、同庁昭和二六年(ミ)第三五号事件として、昭和二十六年十月十七日両者間に控訴人主張のとおりの条項により調停が成立したこと、及び右坂井助次郎が、その後被控訴人に対し、(イ)昭和二十六年十二月二十九日に金十五万円、(ロ)昭和二十七年三月五日に金一万五千円、(ハ)同年五月三十一日に金一万五千円、(ニ)同年六月三日に金三万円、(ホ)同年七月一日に金一万五千円、(ヘ)同年八月二日に金一万五千円、(ト)同年九月三十日に金一万五千円、(チ)同年十月七日に金四万五千円をそれぞれ支払い、合計金三十万円を支払つたことは、当事者間に争のないところである。

そこで、右金三十万円の支払によつて、控訴人が、調停条項第三項に基き残債務金九万四千七百五十円について、その免除を得たかどうかの点につき按ずるに、調停条項第一項但書には、「右分割支払を三回以上遅滞したる場合は期限の利益を失う。」とあり第三項には、「第一項の分割支払を遅滞なく完全に履行したる場合は、残債務金九万四千七百五十円の支払義務を免除する。」とあつて、その調停条項の文言、並びに当審証人高山照雄の証言を綜合して考えると、右第一項但書は、各分割金を通じてその弁済期に支払を遅滞することが、合計三回になつた場合は期限の利益を失う趣旨を定めたのであつて、第三項は、右第一項但書の定めによつて期限の利益を失うことなく、第一項本文の分割金の弁済を終えた場合は、残債務を免除する趣旨のもとに合意がなされたものと認めるのが相当である。控訴人は、これに反し、右第一項但書に「右分割支払を三回以上遅滞したる場合」とあるのは、各分割金について、その支払を三箇月遅滞した場合、換言すれば、各分割金についてその支払を弁済期になさず、しかもその支払を遅滞したまま右弁済期から二箇月を経過した場合を指す趣旨であると主張するけれども、この点に関する当審証人坂井助次郎の供述は、前記証拠に照らしてにわかに措信できず、他に右認定を覆えして、控訴人の右主張事実を立証するに足る資料はなにもない。(もつとも、原審証人坂井助次郎、瀬田角平、金川金司の各証言中には、控訴人の右主張に添う部分があるけれども、右証言はいずれも証拠として採用することができないものである。即ち、本訴が、本件調停の成立した新潟簡易裁判所の専属管轄に属すべきことは、民事調停法附則十三条、旧金銭債務臨時調停法第四条、旧借地借家調停法第十二条、民事訴訟法第五百六十条、第五百四十五条、第五百六十三条の規定に徴し明らかである。しかるに、本訴は、昭和二十七年十二月十三日新潟地方裁判所三条支部に提起され、同裁判所において口頭弁論を開き、本案について証拠調を施行した後、昭和二十八年七月二十三日新潟簡易裁判所に移送されたものであつて、前記証人等に対する証拠調は、右移送前右三条支部においてなされたものであることは、記録によつて認められる。けれども、専属管轄の規定は、専ら公益を目的とした強行規定であるから、その法規に違背して管轄権のない裁判所においてなされた証拠調その他の訴訟行為は、無効であつて、移送を受けた裁判所においてその効力を有し得ないものと解すべきである。従つて、専属管轄の規定に違背してなされた前記証人等の証拠調について、当事者がなんら異議を述べた形跡のないことは記録上認められるけれども、右法規の違背は、責問権の抛棄により治癒せられ得るものではないから、結局前記証人等の証言は証拠として採用するに由ないものといわざるを得ない。)

しからば、前記坂井助次郎が、本件調停の成立後、昭和二十六年十二月二十九日より昭和二十七年十月七日までの間に合計金三十万円の支払を受けたことは、前記のとおりであるけれども、右坂井助次郎は、調停条項第一項によつて昭和二十六年十二月二十八日に支払うべき金十五万円及び昭和二十七年二月、三月の各末日に支払うべき各金一万五千円をいずれも所定の期日経過後前記(イ)(ロ)(ハ)の各日にそれぞれ支払つたのであるから、他に特段の事由のない限り、分割金の支払は右三回にわたつて既に遅滞があつたものと認めるほかなく、従つて結局右第一項但書の趣旨により昭和二十七年三月末日の経過とともに期限の利益を失つたものといわざるを得ないのであつて、同時に又、第三項の定むる残債務金九万四千七百五十円については、免除の効力を生ずるに至らなかつたものと認めるのほかない。

従つて、控訴人は、なお右残債務の範囲内において債務を負担し、本件債務名義はなおその限度において執行力を有するものといわなければならない。

右のとおりであるから、控訴人の本訴請求は失当であつて、到底排斥を免れない。

よつて、これと同趣旨に出でた原判決を相当と認め、民事訴訟法第三百八十四条、第八十九条、第九十五条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 山村仁 緒方節郎 寺沢栄)

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